くいしんぼうネコ
「ひろくん。ぐずぐすしてないで、はやくたべてしまいなさい」
 おかあさんがいいました。
 おさらのうえには、だいきらいなにんじんがのこっています。   
「いやだよう。たべたくないよう」
「だめよ。のこさずたべるまで、あそびにいっちゃいけません」
 おかあさんはこわいかおでいいました。
 ひろくんはなきそうになりました。はやくあそびにいきたいけれど、にんじんをたべるのはどうしてもいやです。
「こんなくさいもの、にんげんのたべるもんじゃないや」
 そういったときです。
「なんだあ、それ、にんげんのたべものじゃなかったのかぁ」
 テーブルのすみっこに、ネコがすわっていました。ネコはにぃっとわらって、ひろくんにはなしかけてきました。
「だったら、おれにくわせてくれよ」
「いいよ、ぜんぶあげるよ」
 ひろくんがいうと、ネコはあっというまに、おさらのうえのにんじんをたいらげてしまいました。
「ごっつぁんでした」
 ながいしたでおいしそうにヒゲをペロリンとなめると、ネコはにぃっとわらっていいました。
「あら、ひろくん、ぜんぶたべたの。えらかったわねえ」
 おかあさんがきました。すると、いつのまにかネコはいなくなっていました。


 つぎのひのおひるごはんのおわりごろ。
 ひろくんは、のこしたピーマンをおはしでいじくりまわしていました。
「ひろくん、かたづかないから、はやくたべてしまいなさい」
 おかあさんがいいました。
「いやだよう。こんなにがいもの、にんげんのたべるもんじゃないや」
 ひろくんがそういったとたん、
「にんげんのたべものじゃないんだったら、おれにくわせてくれるよな」
 きのうのネコがにぃっとわらって、テーブルにのっかっていました。
「いいよいいよ、ぜんぶたべてよ」
 ひろくんがまだいいおわらないうちに、ネコはおさらのうえのピーマンを、いちびょうでたべてしまいました。
「ごっつぁんでした」
 ネコは、ながいしたでおいしそうにヒゲをペロリンとなめて、にぃっとわらいました。
「あら、ひろくん、ぜんぶたべたの。えらかったわねえ」
 おかあさんがくると、またいつのまにかネコはいなくなっていました。
 ひろくんは、これからもきらいなものはぜんぶ、あのネコがたべてくれるといいな、とおもいました。


 つぎのひのおひるごはんのとちゅう。
 ひろくんがコーンスープをスプーンでくるくるかきまぜていると、ネコがやってきました。
「たべられないもんは、ぜんぶたべてやるぜ」
「ちがうよ、スープはきらいじゃないんだよ」
 ひろくんのいうのもきかずに、ネコはスープをいっしゅんでのみほしてしまいました。
「これもいらねえんだよな」
「あっ、ちがうよ」
 ネコは、おさらにのこっていたプチトマトもペロリとのみこんでしまいました。
「ごっつぁんでした。あぁ、うまかった」
 ネコは、ながいしたでおいしそうにヒゲをペロリンとなめて、にぃっとわらうときえてしまいました。
「あら、ひろくん、またぜんぶたべられたのね。えらいわ」
 おかあさんがほめてくれましたが、ぜんぜんうれしくありません。スープもプチトマトもだいすきだったのに、かってにぜんぶたべられてしまったのです。
 もうあのネコにはぜったいなにもたべさせてやらないぞ、とひろくんはきめました。


 つぎのひのおひるごはんのときです。
 ひろくんがたべようとしたとたん、ネコがやってきました。おさらのうえには、すきなものも、きらいなものもまだぜんぶのこっています。
「にんげんのたべられないものは、ぜぇんぶまとめて、たべてやるぜ」
 ネコはしたなめずりしながら、にぃっとわらいました。
「これはみんなたべられるものだってば。もうぜったい、なにもやらないからな」
 ひろくんは、ネコにたべられないように、すごいスピードでたべはじめました。ネコもまけじと、おさらにかおをつっこんできます。
 ハンバーグのソースや、キャベツのせんぎりが、テーブルのうえにとびちりました。
ひろくんのほっぺたも、ネコのひげも、スープやソースでべとべとです。
 ネコがさいごにおさらにのこったにんじんソテーに手をのばしました。でも、ひろくんがいっしゅんはやく、くちにほうりこみました。ネコは、くちいっぱいほおばっているひろくんを、ギロリとにらみました。
「ちぇっ、もうおまえにゃ、もうつきあってらんねえや」
 ネコはにぃぃーっとわらうと、どこかにきえてしまいました。
 ひろくんは、ネコとのきょうそうでおなかがぺったんこになっていたので、やわらかくてあまいにんじんソテーを、とてもおいしそうにもぐもぐとたべました。
「にんじんがこんなにおいしかったなんて、しらなかったよ。もしかしたら、ピーマンもそんなににがくないかもしれないな」
 ひろくんは、くいしんぼうなネコのくいっぷりをおもいだして、そうおもいました。
「あらあら、ひろくん。ぜんぶたべられたのはいいけど、テーブルのうえが、めちゃくちゃじゃないの」
 おかあさんがおこったかおで、いいました。ひろくんは、したをペロリンとだして、くちのまわりをなめ、にぃーっとわらいました。

「ごっつぁんでした。ああ、おいしかった」


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