岩田さんはトラックの運転手です。

  といっても、なりたてのほやほやで、買ったばかりのトラックの車体には、まだなんの飾りも

  ついていません。毎晩、すれ違うほかのトラックたちの、車体に描かれた派手な絵やキラキラ

  した電球の飾りを見るたびに、

  「はよ金ためて日本一のごっつい飾り、つけたんねん!」

   と、岩田さんはいつも思っていました。

 

  その夜はクリスマスイブでしたが、岩田さんは仕事で雪の山道を走っていました。

  プレゼントをあげたりもらったりするような家族も恋人もいませんでしたが、夜中に一人で

  トラックを走らせていると、なんとなくさびしい気分がしました。

   雪が急に激しくなり危ないので、岩田さんがトラックのスピードをゆるめたちょうどその時。

   ドッシャーン! という大きな音がして真っ白な光が目の前に降ってきました。岩田さんは思わず

  左にハンドルを切りながら、急ブレーキをかけて止まりました。

  「危なかったなぁ。雷の直撃くらうとこやった」

   ホッと胸をなでおろしたあと、ふと窓ごしに前を見た岩田さんは、道路の真ん中に何かが転がって

  いるのを見つけました。トラックを降りて見てみると、赤と白のまじりあった固まりが、そろそろと

  起きあがって人の形になりました。それは、白いふちどりのある赤い服を着て、長くて白いひげを

  はやしたおじいさんでした。少し離れた所に落ちていた赤い帽子を拾いながら、おじいさんは

  ブツブツ言っていました。

  「いやあ、困った困った・・・・・・」

  おじいさんはぼんやりと空を見上げています。岩田さんは声をかけてみました。

  「大丈夫かい? おじいちゃん、こんなとこで、いったい何してはんの?」

   お店の宣伝のためにサンタクロースのかっこうをしているアルバイトの人かな、と岩田さんは

  思いました。でも、こんな夜中にこんな山道にいても、宣伝効果なんてなさそうです。

  「下の景色に気をとられて、ソリから落っこちたんじゃ。困ったぞぉ・・・・・・トナカイたちはどこだ?」

   おじいさんは、まだきょろきょろあたりを見まわしています。岩田さんはちょっと気味が悪くなり

  ましたが、もう一度声をかけました。

  「とにかく、こんなとこおってもしゃあないやろ。この先の町まで乗せてったろか?」

   するとおじいさんは、素直にトラックに乗りこんできましたが、助手席でもすっと外を見回しながら

  「早くせんと、世界じゅうがパニックになるぞ」

   なんて、おおげさなことを言っています。白い眉をしかめた赤ら顔が、とてもいっしょうけんめい

  なのに、なんだかかわいらしくて、岩田さんは思わずほほえんでしまいました。

  「おじいちゃん、どの町まで行ったらええんかな?」

   岩田さんがたずねると、おじいさんは

  「このあたりで一番、見晴らしのいい場所へ」 と答えました。

   岩田さんは、近くの小さな山の上にある展望台のほうへ、トラックを走らせました。

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