上り坂が平らになった所に、大きな四角いベランダみたいな展望台がありました。岩田さんがトラックを

  止めると、おじいさんはドアを勝手にあけて、外に飛び出していきました。岩田さんもあとに続いて

  展望台を登っていきました。

   岩田さんがてっぺんに登りつくと、おじいさんは手すりから身を乗り出して、ずっと遠くまで続いている

  星空をながめていました。そして、かぶっていた赤い帽子を振りながら、

  「ホォーイ、 ホォーイ、 ホォーイ!」   と何度も笛のような高い声で叫びました。




 声が夜空に吸い込まれたあと、しばらくは、なんの音も

  聞こえませんでした。

   雪の降る音だけがしんしんと響いているその向こうから、かすかな鈴の音が聞こえてきた気がして

  岩田さんはおじいさんのすぐ後ろに駆けよりました。シャンシャンシャン・・・・・・、その音はどんどん

  近づいてきます。

  「う、うわぁ、なんじゃこりゃ!」

   突然、目の前のなにもない空間に、六頭のトナカイに引かれたソリが浮かんでいたのです。岩田さん

  は驚いて展望台の床にしりもちをついてしまいました。

   おじいさんはヒラリと手すりを飛びこえてソリに乗り移り、たづなをピシリと打って、夜空にトナカイたち

  を走らせました。トナカイたちをつないだ赤と緑の綱には銀色に光る鈴か揺れて、どんなに派手な

  トラックの飾りよりもキラキラと輝いていました。

   空高く飛んでいくソリを、岩田さんは声もなく見送っていました。すると、ソリのほうからまっすぐ

  白い光が降ってきて、トラックの上でまたドーン! と大きな音がしました。

  「礼を言うのを忘れて、すまなんだのぉ〜」

   さっきのおじいさんの声が響いた次の瞬間、岩田さんのトラックは緑と赤で描かれたリボンの模様と

  数え切れないほどたくさんの銀色の鈴で、いっぱいに飾りつけられていました。息をのんだあと、

  岩田さんはおなかの底からワッハッハッと笑いました。

  「めっちゃすごいわ。おれのトラック、サンタのソリになってしもた。サンタ号や!」

   ちょっと派手すぎかな、と思いながらも岩田さんはうれしくてうれしくて、なかなか笑いが

  止まりませんでした。                                      (おわり)

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